手術リスクとそれを低減するための注意点
手術後には、痛みや出血が起こることがあり、めまいや頭痛などの不快な症状が現れる可能性もあります。手術もリスクがゼロではありません。手術後に起こる可能性がある不快な症状や合併症に関する情報や、そうしたリスクを防ぐための注意点などについて、当院では事前診察の際にわかりやすくお伝えしています。
ご帰宅に関するご注意
手術後、当日の運転(自動車・バイク・自転車)は厳禁です。タクシーなど公共交通機関やご家族の送迎でご帰宅ください。ご帰宅時は付き添いの方がいると安心できます。
手術後に現れる可能性がある症状
痛み
手術後、数時間で痛みは軽い生理痛程度になっていきますが、数日から1週間くらい痛みが続くこともあります。妊娠すると子宮は膨れますが、手術によって子宮は元の大きさに収縮していき、それによって痛みを生じます。順調に回復している証拠でもありますが、痛みが強いと回復を遅らせてしまう可能性があります。そのため、手術後、麻酔から覚めた段階で痛みが強い場合には鎮痛剤を使用しています。ご帰宅の際には痛み止めを処方していますので、それを服用することで疼痛管理をします。普段の生理痛が強い、子宮形状が強く屈曲していると収縮痛が起こりやすい傾向があります。ほとんどの場合、翌日には痛み止めの服用が必要ないほど痛みが改善しています。
出血
当院では出血リスクの少ない吸引法による手術を行っています。短時間で子宮内部がきれいになるため、回復も早い傾向があって、出血が起こっても少量ですむことがほとんどです。手術後は生理の時のような出血があっても1~2週間で少なくなっていきます。おりもの程度の場合もありますし、生理2日目程度の出血があるというケースもありますが、多い場合でも数日で出血量は減少していきます。数日経過しても血のかたまりが出る、2週間以上経過してもおりものに少量の血液が混ざるなどを起こすこともあります。出血量が多い状態が続く場合には、早めに受診してください。
ぼんやりする
麻酔の影響でぼんやりする、集中できないといった状態が手術後しばらく続きます。ご帰宅して安静に過ごし、しっかり睡眠をとれば翌朝には治まっています。翌朝以降も続くようでしたら、早めにお問い合わせください。
めまい、頭痛
めまいはまれにしか起こりませんが、麻酔の効果が高い方に起きやすい傾向があります。めまいがある間は一人で歩くと足元がふらついて危険ですので、トイレに行きたくなったらスタッフにお伝えください。なお、麻酔から覚醒して30分ほどでめまいは解消に向かいますが、睡眠をとることで早く回復します。
ムカムカする、嘔吐
通常の麻酔薬では起こりやすい症状ですが、当院では吐き気や嘔吐を起こしにくい麻酔薬を用いています。また、術後の点滴にも吐き気止めが処方されています。そのため、吐き気が起こることはほとんどありません。吐き気は麻酔効果が高い方に起こりやすい傾向がありますが、手術後30分程度で改善に向かいます。なお、術後の飲食は吐き気が治まってから行うようにしてください。
逆行性健忘
麻酔薬が入ってきた以降のことを忘れてしまう症状で、手術直後に話をしたことを覚えていないなどを起こします。まれにしか起こりませんし、30分程度でほとんどが解消するため心配はありません。不安に思うストレスで症状が現れやすいのですが、すぐに回復するため心配し過ぎないようにしてください。
PTSDについて
中絶手術をきっかけにPTSD(心的外傷ストレス)を発症する可能性もあります。中絶手術によるPTSDは、PAS(中絶後遺症候群)と呼ばれています。感情が抑圧されることで、心身症やうつ症状が現れたり、精神的疾患が引き起こされることもあります。 当院では、安全な中絶手術と万全なフォローを心がけており、中絶手術後の子宮内感染やPTSDの予防にも力を入れています。親身にお話を伺っていますので、安心してご相談ください。また、お身体の状態、将来の妊娠や出産、費用、今後の避妊など、どんなことでもお気軽にお尋ねください。
PAS(中絶後遺症候群)の3つの特徴
中絶手術後、下記の症状が現れた場合には、遠慮せずにご相談ください。
過剰な反応
短気になった、集中できない、過剰な警戒心を起こしてしまう、苦悶発作を起こす、眠りが浅くすぐ目覚めてしまう不眠傾向といった症状があります。
侵害行為
中絶のいきさつや手術の記憶を思い出して、うつ状態になります。
抑圧
感情を抑え込むことで、気持ちを麻痺させます。喜怒哀楽が薄くなり、外出や人付き合いが苦手になるなど行動パターンが変わってしまうこともあります。
手術のリスク
手術で起こり得る合併症についてご紹介いたします。
繊毛遺残
中絶手術で一部の組織を取り残してしまった状態です。眼で見ながら行うことができないため、経験豊富なドクターでも起こす可能性のあるリスクだとされています。ただし、丁寧な手術と、術後の検診で遺残は防止可能です。当院では、術前の超音波検査による子宮の状態の詳細な把握に加え、術中にも超音波ガイドを用いて細かい遺残がないかを確認しています。また、術後の検診時にも内診を行って遺残の有無を詳細に確認しています。
出血
生理程度の出血は起こることがありますが、合併症として大量出血が起こることはほとんどありません。大量出血を起こした場合、子宮頚管の損傷、血液凝固障害、子宮穿孔などが疑われます。発生頻度は、可能性がゼロではないという程度です。
子宮頚管損傷
事前に準備の処置をせず、手術中に子宮頚管を急激に拡張する、あるいは経験不足なドクターが掻把法で鉗子などの取り扱いに失敗して起こしているケースがほとんどを占めます。ただし、手術直後は症状が現れず、次回の妊娠時に子宮頚管無力症を起こして初めてわかるケースがあります。そのため、当院では必要があればラミセルやラミナリアによる事前の処置を行い、手術は吸引法を用いることで損傷のリスクを大幅に下げています。ラミセルはやわらかいスポンジを圧縮した直径3ミリ程度の棒状のもので、手術数時間前に挿入します。ゆっくり水分を吸収してラミセルが少しずつ、無理なく頸管を広げてくれます。挿入時に痛みを感じることがありますが、生理痛程度の痛みです。痛みが苦手な方には、事前の痛み止め使用も可能ですから、遠慮なくご相談ください。
WHOや日本産婦人科医会は、急激な子宮頚管拡張を防止するためのこうした事前の処置を推奨しています。
子宮穿孔
まれにしか起こりませんが、将来の安全な妊娠や出産に係わるため注意が必要です。子宮に穴が開いてしまう合併症で、掻把法の方がリスクが高く、吸引法ではほとんど起こることはありません。
感染症
中絶手術は安全に子宮内部のものを除去するため、子宮頚管が広がっている状態で行います。子宮頚管が広がっているのは感染リスクが高い状態ですから、適切な殺菌消毒を行った器具を用い、手術室が高いレベルでクリーンさを保っている必要があります。ただし、細菌がほとんどない環境で手術を行っても、患者様にクラミジア感染などがあった場合、骨盤腹膜炎などを起こす可能性があります。(当院では事前検査を行い、クラミジア感染があれば抗生剤を投与することでリスクを下げています。)なお、血液検査で白血球の急激な上昇があれば感染している可能性が高いと言えます。その場合は早急に適切な抗生剤の投与による治療が必要です。当院ではクラミジアにも効果の高い抗生剤を術後薬としてお出ししています。